現代の食養生
現代の食養生
「食養生」という考え方は、世界中の伝統医学に見られるものです。鍼灸が属する漢方医学も同じ。古代の漢方医はまず食事で病を予防し、病気を治していました。
古代人がかかえていた食の問題は主に、衛生面と栄養不足の問題でした。現代では衛生面は解決されていますが、栄養不足の問題は、形を変えて残っています。
現代人の栄養不足は「質的栄養不足」とも呼ばれます。ご飯、パン、麺と言った精白された糖質や加工食品中心の食生活により、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルが不足して、正常な代謝が行われなくなってしまうのです。
栄養素はすべて重要ですが、日本人の一般的な食生活で、最も不足しやすいのがタンパク質。タンパク質は筋肉や内臓など身体を作る材料であると同時に、代謝(=体内で起こる化学反応)に必要な酵素の材料です。
タンパク不足が慢性化すると筋肉や関節が弱くなり、疲れがたまりやすく、血行が悪くなりますが、このような変化は腰痛、肩こり、頭痛、関節痛、胃腸障害、自律神経の不調といった鍼灸院の患者さんに多い症状とも強く関連しています。
このほかアレルギーや免疫低下、鬱など心の病、子供の多動や発達障害といった多くの病の背景に慢性的なタンパク不足があります。
当院では常日頃、肉や卵、魚介類など動物性食品の摂取を薦めていますが、それは高タンパクな上にビタミンやミネラルが豊富で、質的栄養不足を改善できるからなんです。
たんぱく質の摂取量
一般的なタンパク質摂取量の目安は、体重1㎏あたり1g/日です。
これは成人の標準的な必要量ですが、成長期や妊娠中、授乳中は1.5~2倍、激しい運動をするアスリートや肉体労働者なら3倍にまで増えます。また、量だけでなく「質」も重要。含まれるアミノ酸の違いにより、植物性タンパク質より動物性タンパク質の方が優れています。
肉や魚100gには15~20g、卵1個に6~7gのタンパク質が含まれますから、例えば体重50㎏の成人なら一日に卵3個と肉200gで十分量を摂ることができます。
もちろん米や小麦、大豆などの植物性食品にもタンパク質は含まれますが、タンパク質摂取は動物性中心が望ましいです。動物性食品を摂らず、タンパク源が植物性食品に偏っている人は筋肉や関節が弱く、代謝が低下しやすいという顕著な傾向が見受けられます。
タンパク質を補うためにはプロテインも有効ですが、大豆由来のソイプロテインではなく、ミルク由来のホエイプロテインを選ぶようにしてください。
消化力の高め方
肉やが卵が苦手で、量を食べられないという人も多いですが、それは消化力が弱いから。
特に胃が弱い人は、タンパク質の消化吸収が苦手です。そんなときは一回に食べる量を少なめにして、一口30回以上よく噛んで食べるようにしてください。同時に、生姜や食前酒で胃を刺激して、働きを高めると良いでしょう。生姜はすり下ろしたものを少量、食事の前に食べます。
昔からある消化酵素「強力わかもと」も、肉や卵が苦手な方におすすめです。
おすすめ食材 かつお節
かつお節は成分の78%がタンパク質。体内で作ることができない9種類の「必須アミノ酸」すべてが含まれています。
肉や卵などの動物性食品が苦手な人は、何にでもかつお節を乗せて食べるとよいです。かつお節は少量でも、米や大豆などの植物性食品に足りないアミノ酸を補うこができるので、食事全体のタンパク質の利用効率が高まります。カツオ節にはタンパク質の他、鉄、亜鉛、セレンなどの代謝を高め、免疫を強くする栄養素が豊富に含まれています。
【はりきゅう丙辰堂便り11月号 2022.11 『特集 現代の食養生』『おすすめ食材』より】