東洋医学的な腎とタンパク質

- update更新日 : 2019年12月06日
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大豆と豆乳

タンパク質と腎

個人的な見解ですが、タンパク質と腎蔵は関係が深いと考えています。経験上、低タンパク食を長期間続けると、腎虚体質の傾向が出てくるからです。

腎虚体質者は一般に、次のような特徴があります。

冷え性で寒がり

体力がなく疲れやすい

肌が浅黒くザラついている

臆病で恐がり、驚きやすい

発育が悪く、身体が小さい

体幹が細く、手足、首などがアンバランスに長い

長期間、重度の栄養不足状態にあった人たちは、多かれ少なかれ、腎虚体質の傾向が出ています。また、栄養不足の親から生まれた子供たちは、先天的な腎虚体質の特徴を示していることが多いようです。

※(腎虚(じんきょ)とは、腎臓の力が弱った状態ですが、ここでいう腎臓は西洋医学の腎臓ではなく、東洋医学的な「腎」のこと。以下、西洋医学の腎臓を「腎臓」東洋医学の腎臓を「腎」と表記します)

東洋医学の腎

鍼灸や漢方薬などの東洋医学に触れたことのある人なら、「腎虚(じんきょ)」という言葉を聞いたことがあるでしょう。腎虚とは、腎の弱さであり、生命力が低下した状態です。

例えば、精力減退や不妊症など生殖器関系のトラブル、冷え性や長期に渡る体力低下、慢性疲労を訴える人を「腎虚」と診断することが多いです。これらの症状は、腎の弱った結果として出てくるものだからです。

東洋医学の内臓は、特定の臓器ではなく「臓器と関連した働き」を意味します。その意味で腎は、解剖学的・現代医学的な腎臓だけを意味しません。例えば、男女の生殖器の働きは腎の機能の一部です。このように腎は、腎臓が持つ水分調整機能の他、成長や発育、生命力の保持、そして老化に関係しています。

生殖、子孫を残す

成長、発育

生命力の保持

水分の保持と水分調節

呼吸

耳、骨、髪の健康を保つ

これらの働きには、腎が深く関与しています。そして、腎が衰えると、これらの働きに問題が生じやすくなるのです。

腎虚の症状

腎虚とは、腎が弱って生命力が低下した状態です。

腎が弱ると、

生理不順や不妊

閉経が早い

性欲減退、インポテンツなど、生殖機能の低下

寝汗、暑くもないのに汗が出る

冷え

動悸

怖がり

歯が抜ける

白髪、髪が抜ける

聴力の低下、耳鳴り

強度の近視

頻尿や失禁

足腰の衰え

根気がくなる

物忘れ、痴ほう

子どもの発育不良

成人の老化現象

などなど、実に様々な症状が現れます。

東洋医学では、このような状態を腎の弱り=腎虚と呼んでいる。そして回復には、腎を強める治療や、腎を養う生活、食事の指導を行います。

腎精とタンパク質

東洋医学では、腎に「先天の精」が蓄えられていると考えています。

先天の精とは「生まれ持った生命力」のこと。人は、産持った生命力(=先天の精)を元にして、食べ物や呼吸から「後天の精」を取り入れながら、生命を維持しているのです。

そして、腎臓に蓄えられた先天の精を「腎精(じんせい)」と呼びます。腎精は、生命力の根本であり、次のような働きがあります。

腎精の働き

腎精(じんせい)が充実すると、人の身体は成長・発育します。逆に腎精が衰えると成長が抑制され、成人では老化が始まります。このように人の成長や老化は、腎精に支配されています。

子供が成長し腎精が充実してくると、男子では精子が作られ、女子では初潮を迎えます。そこで性欲が現れ、子どもを作ることが可能になる。子供の発育段階で腎精が不足すると、歩くのが遅い、歯が生えるのが遅い、発育が遅く身体が小さい、などの症状が現れます。

「先天の精」と言うと、なにか抽象的な概念のように聞こえます。でも、この先天の精を「タンパク質」と置き換えると、不思議なほど一致することが多いです。

タンパク質の働き

タンパク質は、身体を作る最も基本的な材料です。タンパク質が不足すれば、子供の身体は充分に発育することができません。

遺伝子であるDNAはタンパク質の設計図であり、新陳代謝に欠かせない代謝酵素、消化酵素などの各種酵素も、すべてタンパク質でできています。また、中年以降のタンパク質不足は歩行能力の低下を招き、老化を促進します。

栄養学的な視点から見て、タンパク質は、生殖や遺伝、成長と発育、体力の維持と老化、生命現象のすべてを根底から支えている、根源的な物質です。

腎虚とタンパク質不足

東洋医学の腎は、タンパク質の働きと重なるところが多いようです。例えば、次のような共通点があります。

水分保持

腎は体の水分保持や水分調節を司っていますが、老化が進むと身体はだんだん水分が失われて、枯れたようになってきます。細胞に水分を保持できなくなり、しわが多くなり、皮膚や身体がたるんできます。これもわかりやすい腎虚の症状ですが、タンパク質不足の症状でもあります。

浮腫み

腎が弱ると、浮腫みを生じやすくなります。浮腫みは、細胞の間に余分な水が溜まった状態です。血液中のタンパク質である「血漿アルブミン」は、血管内の水分保持に需要な役割を果たしていて、慢性的なタンパク質不足では浮腫を生じます。これは血管や細胞内に水分を保持できなくなった状態ですが、腎虚の症状でもあります。

生まれ持った体質

腎は父母から受け継いだ「先天の精」を宿すところですが、父母から受け継いだDNAはタンパク質そのものですし、胎児期から幼少期までの発育は「生まれ持った体質」を形成しますが、成長期のタンパク質摂取が十分なほど、身体の発達・発育は促進されます。

骨の形成

「腎は骨をつかさどる」とされ、腎臓が弱ると骨や歯が弱くなります。骨はカルシウムが主成分ですが、骨の形成にタンパク質の働きが欠かせません。タンパク質不足では、骨ももろくなってしまいます。

老化

腎虚とは、老化現象そのもの。老化は、そのまま腎虚と言っていいです。年を取ると誰でも、生まれ持った生命力(=腎気)が消耗してきますが、これはタンパク不足の影響を大きく受けるようです。

戦後日本人の平均寿命が倍近くに伸びていますが、これは、老化の速度が1/2になったということでもある。この変化には、タンパク質の摂取量の伸びと相関関係があります。

タンパク質不足では基礎代謝が落ち、足腰が弱くなり、要介護状態になるリスクが増大する。つまり老化(=腎虚)を促進してしまいます。

胃弱

タンパク質不足だと胃が弱くなるので、消化吸収能力が顕著に衰えます。するとどうしても栄養不足になり、体力が衰えてきます。これは、生命力の衰えである「腎虚」そのものの症状です。

東洋医学では「腎の陽気」が胃を働かせていると言いますが、腎の陽気とは、胃液や消化液のこと。消化液などの分泌液調整も「水を主る」腎の役割なんです。腎と胃の働きとタンパク質、どうも関連性が深そうです。

ミトコンドリア

慢性的なタンパク質不足だと、筋肉量が減ります。エネルギーを生み出すミトコンドリアの大半は筋肉にあります。筋肉量が減るとミトコンドリアが少なくなり、エネルギー不足にあります。その結果、慢性疲労や冷え、低体温になります。

冷えや慢性疲労は、腎虚の代表的な症状です。筋肉とミトコンドリアと腎、関連性が深そうです。

髪の毛

白髪や抜け毛は腎虚の症状ですが、髪の毛はタンパク質そのもの。タンパク質不足ではやはり、髪の健康も維持できませんから、髪の毛の質が弱くなったり、抜け毛が多くなったり、薄くなったりします。

糖質中心食と老化

糖質の過剰摂取は、様々な健康問題を引き起こします。実際に、鍼灸院での臨床経験や、世の中を観察した時に強い相関関係を感じていることです。

糖質の過剰摂取は、老化を促進すると思います。そう言える理由の一つは、血管の劣化を促進すること。糖質過剰摂取では血糖値の乱高下から、動脈硬化など血管の問題が起こりやすくなります。

糖質過剰摂取が老化を促進するもう一つの理由は、相対的にタンパク質の摂取量が減ってしまうことにあります。

糖質中心の食生活では、炭水化物だけで食事を済ませることが増えてきますが、その結果、どうしてもタンパク質の摂取量が少なくなってくる。これは栄養不足をきたし、老化を促進してしまいます。

東洋医学では伝統的に「甘みは腎を剋す」と言われてきました。剋すとは、攻撃する、弱くする、という意味です。五行論に基づくこの説には理論の飛躍がありますが、現実に合っていると思います。

また、糖化終末産物(AGEs)と呼ばれる、糖とタンパク質が結合した物質が、様々な病気や老化現象と関わっていることも、近年注目されています。

腎とタンパク質

東洋医学の腎とタンパク質は関係性が深い、ということを書いてみました。

これは私が個人的に考えていることであり、一般的な東洋医学で言われていることではありません。ただ、古い東洋医学の本(医古典)などを眺めていると、古代の人はわかっていたと思うことがあります。

例えば、「豆は腎臓を強くする。なぜなら形が腎臓に似ているから。」などと言われていますが、豆類は農耕民族にとって重要なタンパク源でした。古代の人は長年の観察から、腎とタンパク質の関係、生命にとってのタンパク質の重要性を見抜いていたのかもしれません。

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