身体のバランスを整えるとはどういうことか?

天秤

鍼灸と身体のバランス

「お身体のバランス整えます」というフレーズをよく聞きます。でも、バランスってなんでしょうね?なんとなく聞こえがいいですが、曖昧に使われていることが多い言葉です。鍼灸も身体のバランスを取る医術であり、もちろん僕もバランスをとるべく鍼灸治療しています。

今日は鍼灸治療におけるバランスについて、描いてみたいと思います。

鍼灸師が身体を診る時、いくつかの基本的な視点を持って診察しています。その中でも中心となるのが『虚実・寒熱』という視点です。簡単に説明すると、

力がある・ない = 虚・実(きょ・じつ)

熱い・冷たい = 寒・熱(かん・ねつ)

ということになります。以下に、もう少し詳しく説明します。

虚・実のバランス

背骨を支える左右の筋肉のうち、どちらかが強くてどちらかが弱い、ということがあります。

例えば腰痛。腰は常に上半身の重さを支えているので疲れが溜まりやすい場所。ですから痛くなることが多いです。そして腰痛の方の身体を観察すると、左右の筋肉の付き方に差があることが少なくありません。それが極端になると、疲れが溜まりやすい身体になってきます。

腰痛があり、左右どちらかの筋肉を使いすぎて凝り固まり、触るとゴリゴリしている。そのような身体のバランスを取るとしたら、鍼やお灸で緊張を弛め、左右の筋肉の緊張が同程度になるように調整します。実際にそうすることで、痛みが取れてしまうことが多いんです。

これは左右の虚実のバランスを取る治療。鍼灸では力が入りすぎて盛り上がっているような状態を「実(じつ)」、力がない状態を「虚(きょ)」と言いますが、虚実の差が大きくなると痛みや症状が出やすくなります。そして虚実のバランスを取るような治療をして、左右差が無くなるように整えていきます。

寒・熱のバランス

寒・熱(かん・ねつ)とは、熱い、冷たいということ。これは温度のアンバランスが生じた状態です。

例えば、手足などの末端が冷たい人がいます。膝から下だけ、くるぶしから下だけがやたらと冷たいのは、いわゆる「冷え」の状態です。この状態を温度のアンバランス、あるいは血液分布のアンバランスとして認識し、バランスを取るべく治療していきます。

血液分布のアンバランスとは、言い換えれば血流の悪さです。末端で血液の流れが滞った状態だと、温度としては冷えてきます。ぐんぐん流れていれば、末端まで温かいはずですから。このように、手足の末端に冷えがあるとき、鍼やお灸をすると血流が活性化して温まり、全身の温度と均一化してきます。つまり温度のムラが無くなってくるんです。その変化が起これば、寒熱のバランスが取れたということです。バランスが取れると、冷えや循環障害をともなう症状は改善してきます。

冷えとは反対の例を挙げます。例えば、関節が炎症を起こして腫れているとします。腫れている部位はたいてい、熱を持っています。関節が熱を持って腫れていると、かなりの痛みを伴うことが多いです。鍼灸でこれを治療するときは、やはり、過剰な熱を取るべく施術をします。腫れている関節の周囲の血液循環を促し、関節にこもった熱を発散させて冷まします。氷などで冷やすのとは違いますが、こもっていた熱が発散されて冷めてくる。こうして寒熱のバランスを整えるのです。すると炎症が鎮まり、痛みが軽減し、放っておくよりもずっと早く治ります。

全身的なバランス

これらはほんの一例ですが、温度や血流、筋肉などの状態に偏りのある状態で、痛みなどの症状がある場合、偏りを均一化すると症状が消えてしまうことが多い。これ、臨床上はよくあることなんです。

鍼灸はシンプルな道具しか使わないので、複雑な事は出来ません。だから身体の状態を「虚・実・寒・熱」くらいシンプルな概念に置き換えて、シンプルに処置します。そして、その処置、刺激が、身体が本来求めている方向性と一致している場合、治癒力が急速に働き始めます。

わかりやすいように局所的な例をあげましたが、このようなアンバランスを全身的に整えていくことで、気血が良くめぐり、胃腸や内臓が活発に働くようになります。鍼灸ではこのようにして治療し、身体を整えているのです。

虚実を補瀉して平にする

患者さんが来ると、まず何に困っているか伺います。そして、思い当たる原因があるか、病院での診断結果、今までの経緯など、できるだけ情報を引出します。その上でお身体の状態を診る。そのとき異常所見、つまり「変なところ」がないか探していきます。

変に冷たいとか、変に熱いとか、盛り上がってるとか、凹んでるとか、こういうのを、虚・実・寒・熱と呼び、そのバランスを整える。これが鍼灸治療なんです。

身体に何らかのアンバランスを発見したら、患者さんが訴えている症状との関連性を考える。つまり、症状と虚・実・寒・熱の関連性を見つけていく。そして関連がありそうなところから、元の状態に戻すような施術を行っていきます。

熱いなら冷めるように

冷たいなら温まるように

盛り上がっていれば平らになるように

凹んでいれば、それも平らになるように

伝統鍼灸ではこれを「虚実を補瀉して平にする」と表現します。補瀉(ほしゃ)とは、補ったり抜いたり、というような意味です。このようなことを全身に分布する経絡(けいらく)やツボ(経穴)を活用して行い、症状を改善しながら身体のバランスを整えていく。鍼灸で言うバランスをとるとは、そういうことなんです。